Web草思
NHKのウワサ 眞木のぼる×田原茂行
第14回 中央と地方の関係を逆転させてみよう
NHKを二つに!

 ──前回、視聴者に本当に役立つNHK改革に必要な条件として、NHKの組織の中に、公共性・創造性を競うような仕組みを構造的につくる必要があると言ってらっしゃいました。
 「そうです。そのために、創造性を殺すNHKの中央集権体制を改め、地域的・機能的分権体制をつくり、組織内で公共性の競争をさせる必要がある。もう一つは、NHKが当然返上する衛星のチャンネルを、民間の創造的な番組制作能力をもつプロダクショングループに開放し、NHKと公共性の競争をさせる。三つ目に、民放がNHKと公共性を競う体制でした」
 ──私はあの後、夏休みで故郷に帰ったとき、高校の同級生たちと話し合う機会がありましてね、今まで私たちがNHK改革について話し合ったことを皆に語ったところ、「どうする、これからの公共放送」ということで盛り上がりました。
 「ほう、それは貴重ですね。日本中いたるところで視聴者が自分の問題として議論してくれるとNHKもうかうかしていられなくなるのですがね」
 ──視聴者が自発的に組織する「平成公共放送委員会」ですよね。
 「NHKや政・官が組織するお仕着せの「ミーティング」や「懇談会」ではなくね」
 ──そこではね、思い切った意見がいろいろ出ました。でも一晩で終わらず二晩になってしまいました。
 「既成の枠組みにとらわれない新しいパラダイム。聞いてみたいですね」
 ──というまでは行きません。きっとどこかに既存の類似モデルがありますよ。
 「まあまあ、そう言わずに。今日は私が聞き役に回りましょう」
 ──まずはですね、放送、特に公共放送の政治・政府からの独立を保障する仕組みは絶対必要で大前提とします。
 そして、あなたのおっしゃる分権化です。そこでわれわれ仲間、特に地方・地域に生きる仲間の意見は大きく展開しました。分権化といっても、現在の国と地方の体制を見ればわかるように、中央はなかなかその権限を渡しませんね。財源移転はさらにままならない。また地方はサラリーマン根性で、何かというと権限を持つ中央のご意向を忖度する。それは番組制作・報道現場と経営トップとの関係でも同じでしょう。それがきちんとできていれば悪名高いエビジョンイルこと海老沢前会長の支配体制の出現など許さなかったはずでしょう。
 「まったくそうです。一方会長が変わっても、ガバナンスの強化とか効率化と称して直ぐに中央権力強化を打ち出す始末です。だから人格円満な善意の白馬の騎士を期待するだけでは駄目で、分権を保障する構造的仕組みが必要なのです」
 ──そうでしょう。何しろ、テレビ5波・ラジオ3波の言論と6000億の資金を持っているじゃないですか、この巨大メディアNHKが、民業を圧迫するという恐れよりは、政治的・思想的に一色に染まったときに日本はどうなってしまうのか、その恐ろしさを私たちは話し合ったのです。
 そこで、私たちはなんだかんだと言っても既にある「一つのNHK」を前提に話をしていることに気づきました。じゃあ、いっそのこと二つの公共放送に分割したらどうだ、ということになったのです。性質の違う二つのNHKが公共性・創造性を競うのです。
 「なるほど、これは意表をつきましたね。二つのNHKですね。ありえますね。もともとNHKのテレビは地上2波だったのですから、テレビ4波を二つに分けてもそれぞれが使命を果たすことは可能です。しかし、現在までのNHKに関する「懇談会」や「諮問委員会」はどれも保有メディアの数は問題にしても、分割を取り上げてはいませんでした。どのようなコンセプトに基づいて二つに分割するのです?」
 ──一つは、独立した権限をもつ地域放送局とその連合ネットワークとしての放送局「NHK1」(テレビ2波・ラジオ1・FM1)です。もう一つは従来型の全国放送中心の放送局「NHK2」(テレビ2波・ラジオ2波)です。
 ただしこの「NHK2」は、財政基盤を地域放送局が集めた受信料からの拠出金による運営とするのです。これが大事です。中央が集めて配布するのではないのです。
 「なるほど、現在の中央集権を逆転させた発想ですね。地域放送局を放送の原点とするということですね」

道州制を基本にした連合ネットワーク

 ──先日故郷の実家に集金にきたNHKスタッフの話ですと、彼らの集めた受信料はあっという間に東京に送金されて、地域放送局の銀行口座には残らず、東京がまず使う。逆に地方へは東京で使い道を細かく決めて配布されてくるのだそうです。地域放送局は財政的にも問題の地方自治体の自治権限に遠く及ばないというのです。
 「放送内容では、東京が最良・最上と思っている中央集権体質を変えさせるためにも、まずは、財政基盤を逆転させようというわけですね」
 ──そうです、そうです。
 「それは面白い。フランス(フランス3)にも、ドイツ(ARD)にも、地域放送局の連合ネットワークのチャンネルは存在しますが、あなたたちの発想のほうが過激ですね」
 ──やっぱりどこかにあるのではと思っていましたが、フランスやドイツにありましたか。
 「いやいや、落胆することはありません。自信を持ってください」
 ──そうですか?
 「勿論です。ところで、問題の会長ポストはどうするのですか」
 ──当然二人の会長です。NHK1会長。NHK2会長です。まったく違ったキャラクターの会長が二人いて公共性を競ったりするのは面白くありませんか。
 「どのように選ぶか問題ですね」
 ──矢継ぎ早ですね。その前に「地域」のくくりをどうするか、われわれは話し合いました。地方自治では将来現在の県単位をやめて「道州制」にしようという話もあるそうですが、「NHK1」の地域局も経営の自立性と地域特性を考えて、この道州制に近い括りが良いということになりました。例えば「北海道・札幌」「東北・仙台」「南関東・東京」「北関東・宇都宮」「甲信越・長野」「北陸・金沢」「東海・名古屋」「関西・大阪」「中国・広島」「四国・松山」「九州・福岡」「沖縄・那覇」の12ブロックです。各ブロックは、自立的にすべてのことを決定できます。例えば前回、NHKが貴重な番組制作能力を持つベテランを、年齢で区切っていっせいに退職させたと批判なさっていましたが、それは各ブロックのノウハウ継承状況・経営状況によって独自に判断すればよいのです。大事なことはそれぞれが公共性の特色を作り出すことです。もちろん、ブロック間のコラボレーション・海外との協力も自由です。またネットワーク共通の仕事には視聴者数比率で資金を拠出し運営します。
 「なるほどよく考えているじゃないですか、お盆休みの夜話では終わっていませんね」
 ──あなたと話し合いをしてきたお蔭ですよ。
 「行政の地方分権の先駆けにもなります。沖縄を独立させたところもなかなか面白いですね」
 ──沖縄は、基地問題だけではなく、地政的にも、文化的にも独特のものがありますものね、本土の県と一緒にできないでしょう。本土の各県域局は、番組制作・ニュース取材拠点として活躍してもらいます。
 「なるほど。ところで、さっきの会長の件ですが、どうなります?」
 ──とりあえず、「NHK1」に話を集中させてください。各ブロックに、県域にも配慮しながら、視聴者代表の「ブロック経営委員会」を選びます。それにはいろいろな方法があるでしょうがそれはまた論じるとして、「ブロック経営委員会」はNHK内外を問わず地域放送の公共性・創造性の発展についてのマニフェストをかかげた立候補者の中から、「ブロック地域局・局長」をオープンに選びます。さらに選ばれた「ブロック地域局局長」がネットワーク「NHK1」の執行部を構成します。「NHK1」会長はこの「ブロック地域局局長」たちの互選により決めます。ですから、ここが大事なところですが、会長は局長たちの多数決によって罷免もされます。また常に「南関東・東京ブロック」の局長が「NHK1」の会長になるとは限りません。その実績・ネットワーク運営についての識見によって関西の場合もあり九州の場合もありです。
 「なるほど、ネットワーク傘下の局長たちによって罷免できる会長という発想は面白いですね。専制的会長の下で、ドミノ倒しに公共性が崩壊してしまう危険を防げますね」
 ──株式会社の場合は、あまりにひどい社長が突然取締役会で、社長を罷免されることがあるじゃないですか、あれですよ。

地方を中央にする発想

 「ところで放送の特色はどうなります」
 ──この「NHK1」の特色は、あくまで地域の生活者の目で地域の社会・文化を捉え、ひいては日本、世界を考え、またそこへ向けて地域の情報・文化を発信することにあると思います。メディアのネットワークというとすぐに東京から地方へという流れになりますが、ここでは対等なブロック同士の交流です。東京はその一つです。ですから、例えば東京ブロック発の政治・経済のニュースも、東京がつけたコメントとは別に、地域独自の評価・コメントをつけて放送します。大阪の笑い・ドラマ・中小企業問題、京都の伝統文化・知の集積、広島長崎の原爆と平和問題、福岡のアジア諸国との交流、沖縄の基地と日米関係・環太平洋の民族芸能等、各ブロック独自の個性を持った地域放送がネットワークにのります。前回紹介された福岡制作のドラマも、なにも東京のお墨付きをもらわなくても独自の判断で制作し放送できるのです。当然地域に根を下ろしたプロダクション・クリエーターたちにも参加してもらう仕組みも作り多様性を確保しますよ。
 「だんだん仕組みも放送内容も見えてきましたね。とにかくすべての面で、発想・制作方法・表現・評価など東京パターンを最良としないこと、いやそれを超えることが大切です」
 ──例えばネットワークセンターを東京におかず、日本の中央の名古屋や大阪に置くのはどうかという意見も出ました。
 そうそう、もう一つ大事なことがありました。これは確か、「デジタル時代のNHK懇談会」の報告書にも小さくコメントされていたと思いますが、「市民がアクセスし自由に直接発表できる場」をゴールデンアワーに定時で提供し、技術・資金のサポートをし、またその能力向上に力を尽くすことも仕事です。そうすることで、この放送局の放送がより市民に近づき豊かになると思うのです。ちょうど団塊の世代が退職し地域社会に根づきはじめるときです。彼らのパワーにも期待できます。
 「それはすばらしい。この地域放送ネットワークに市民アクセスチャンネルを取り込み、それを使命とするのは、きっと新しい力を公共放送に与えますよ」
 ──そうでしょう。まだまだ考えなければならないことがありますが、中央と地方の関係を逆転させてみることから21世紀に通用する新しいNHK像が見えてきませんか。
 「今日は、すっかり聞き役に回ってしまいましたね。「NHK2」のことはまた機会を見てうかがうとして、日本中いたるところで視聴者が素人であることを恐れずこのような議論をし、積極的に提言をすることが、NHK改革にとって今重要なことですね。放送の問題は私たちの問題なのですから」

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