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NHKのウワサ 眞木のぼる×田原茂行
第9回 “パクリ”のうわさ
番組を評価してみる

 ──先週、こちらから家に帰って早速、「NHKもNHKだが、ただぼんやりと受信料を払ってきた視聴者にも責任があるぞ」と家内にいいましたら、やぶへびでした。「それじゃ私たちに何ができるの。受信料不払いしか思いつかないんじゃ、まるで能がないわね」と逆襲されましてね。
 「なるほど、それでわざわざノートを買ってきて、NHKの番組の評価を始めたわけですね。ほう、奥さんの欄もありますね」
 ──意見を書くと長くなるんで、5段階の点数にしたんですが、わずか1週間の夜の番組だけでもたいへんな作業ですね。暇人の私でも全部みる時間がないので、とりあえず、録画したビデオをじっくり見て採点しました。
 「確かに、視聴者の側でまずやれることは、番組そのものを評価することですね。番組一つ一つの評価が、制度と組織の在り方を考える手掛かりになりますからね。NHK改革をいうなら、政府の諮問会議や政治家の人たちこそ、まず番組評価をやってみるべきでしたね。そうすれば、組織の表面的なスリム化や、受信料の義務化では済まない組織の病根に気が付いたかもしれませんよ。政府案を批判した「デジタル時代のNHK懇談会」も、もっと具体的な組織の根本改革を考えられたかもしれませんしね」
 ──採点の基準として、先日うかがったBBCの「他の局とは一線を画す卓越したもの」があれば、それを5点にしたかったんですが。
 「お二人とも5点がありますが、『日曜美術館』など、みな3チャンネル、教育テレビですね」

オリジナルに敬意の払われないパクリ企画

 ──総合放送は意見が分かれましてね。『鶴瓶の家族に乾杯』は、鶴瓶が全国を行き当たりばったりに歩くのが面白くて、私は5点ですが、家内は3点でした。
 「『家族に乾杯』はいまNHKの人気トップの番組ですが、奥さんはどういうご意見ですか」
 ──近ごろ、タレントが田舎に行く番組が多く、初めて突然訪れた土地の人が、タレントと出会って、仏頂面しながらも、それぞれ思いがけない面白い話をするのは皆似てるらしいんです。とくに、『鶴瓶の家族に乾杯』は、鶴瓶があまり有名人なので、土地の人が皆、待ってましたという感じで歓迎するのがつまらない、といってました。
 「実は、鶴瓶の番組も、民放の番組も、福井テレビジョンという地域局が05年に始めた『俵太の達者でござる』という名番組の企画をそのままいただいたものです。この『俵太の達者でござる』のキャスターの越前屋俵太という人は、まったく予定なしにふらりと訪れた町を歩きながら、そこで最初に出会った人と話しこんで、それをそのまま番組にするという奇想天外な手法を開発しました。これは、福井県独特の暮らし方と多彩な職業を抜きにしては思いつかなかった企画だと思いますが、いまの金をかけたテレビ番組の在り方への厳しい批判と、庶民一人一人の人生への深い関心から生まれたものなんですね」
 ──つまり『家族に乾杯』などの田舎歩き番組は、企画の“パクリ”ですか。
 「企画の“パクリ”はままあることですが、問題は、元の企画のオリジナリティをどう理解し、敬意を払い、より発展させるかですね。『俵太の達者でござる』は、いま関東のU局で再放送されていますから、ぜひご覧になってください。奥さんにも、越前屋俵太の番組のユーモアと味わいは、東京発の類似番組とは別物だと感じていただけると思いますよ。鶴瓶さんは、番組の中で「この番組は何も打ち合わせなしでんね」と自慢していますが、元祖『俵太の達者でござる』の誕生の意味を考えてもらうと、奥さんの採点も変わるかもしれませんね」
 ──パクリといえば、家内が5点をつけた『探検ロマン世界遺産』は、始まる時に題名がパクリかどうかでモメた番組でしたね。
 「世界遺産という言葉は、1972年にユネスコ総会で採択された The World Heritage の保護に関する条約の中の言葉の翻訳として、だれでも使える言葉です。しかし『世界遺産』というTBSの番組は、96年の開始の時から、優れた撮影技術で注目され、世界遺産という言葉を日本で広める役割を果たしてきました。民放では希有なドキュメンタリー番組ですね。NHKもこれをタイトルにそのままは使えないので、ちょっとひねって『探検ロマン世界遺産』としたわけですが、TBSは、違法ではないにせよ、せっかくつくった看板を他所にもっていかれるのは心外だとして抗議しましたね」
 ──企画そのものがパクリだともいえますが、結局この場合、NHKはヤリドクになったようですね。
 「元祖『世界遺産』に十分な敬意を払う姿勢があれば、企画の取り上げ方そのものにも、タイトルの決め方にももっと配慮があって当然ですね。しかし近年のNHKは、ドラマでもドキュメンタリーでも、企画や脚本に利用した出版物の明示をめぐって、原著作者の側から抗議を受けることが少なくないようですが、力関係として、泣き寝入りがほとんどだと聞きます」
 ──企画のパクリは、違法うんぬんの前に、局の権威に関わる問題のような気がしますね。
 「そういえば、80年代に、それまで長年低迷を続けたフジテレビが一気に業界トップになりましたが、当時の編成局長はこういう方針を打ち出したんですね。「今後、フジテレビは歯を食いしばっても人真似の番組はつくらない」。これは歴史的な名言とされていますが、確かにこれが、フジテレビの全盛時代のスタートだったんですね」

ポリシーのなさが凋落の始まり

 ──その言葉がいまそのまま生きているかどうかは別として、その言葉に比べると、NHKの去年の紅白歌合戦の司会のみのもんたの起用はひどいもんでしたね。みのもんたは根っからの民放育ちで、NHKの歌番組とはまったく無関係なタレントですよね。
 「みのもんたが民放でもつ視聴率がそのまま上乗せされるだろうという安易な思いつきですね。歌番組についても、司会者の選択についても、まるで局の見識、制作者のポリシーがないことが露呈しました。会場も出演者も盛り上がらず、むしろしばしばシラケてましたね」
 ──うちの奥さんも、「今年はなんだか変な紅白ね」といってましたが、みの本人も、あとでどこかのテレビで、NHKの方針とのギャップをぶちまけていましたね。
 「奥さんの好きな歌謡コンサートも、長年、一つのポリシーを探ってきているから固定ファンがいるわけですね。局のポリシーがいいかげんだと、視聴者は必ず離れて行きますよ。
 興味深い例があります。78年に始まったTBSの『ザ・ベストテン』は10年続いて絶好調でしたが、司会の久米宏と黒柳徹子が、年末のレコード大賞の選考が政治的で、『ザ・ベストテン』の実績とかけ離れているのに怒って番組を降ります。80年代に入ってTBSの経営の劣勢はすでに始まっていましたが、その後回復不能の状態に入ったのは、この事件以後ですね」
 ──歌番組も局のポリシーが重要だとすると、われわれ夫婦がどっちも2点しかつけなかったNHKニュースは、どんなポリシーでつくられているんでしょうか。
 「ほう、2点ですか」
 ──とにかくわれわれは、民放各局と比較して、あまりに情報量が少ない、判断材料が乏しい、だからつまらない、ということなんですけどね。
 「以前私がいった、記者クラブ情報への依存、公式発表べったり、というのは、自分の力で探さないという意味で、表現者として一種のパクリなんですね。それは組織としてのポリシーの放棄と表裏一体の構造で……」
 ──分かりました。そこで、毎週のドキュメンタリー編成を、というのが先生の話のオチですね。
 「いや、まだオチにはなりません。ニュースについては、ポリシーの放棄が問題なのか、その歪みが問題なのか、その両方なのか、じっくり考える必要がありますね」

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