Web草思
NHKのウワサ 眞木のぼる×田原茂行
第5回 受信料義務化の行方は?
特殊な法人の問題点

 ──NHKはこのところ、あまり憲法改正問題を取り上げていないようですが。
 「“NHKスペシャル”などでも、まだ扱っていませんね。NHKにしてみれば、憲法改正の議論の場として期待されても、いまは少々荷が重いでしょう。組織の在り方そのものが、視聴者と政府に揺さぶられていますからね」
 ──マナ板の上の鯉という点で、社会保険庁とまったく同じということですね。
 「どちらも、“民”でも“省”でもない特殊な法人で、それぞれ1万数千人を抱える巨大組織ですしね。社会保険庁も、本来の使命を忘れて組織防衛に力を入れてきた結果、収納率、納付率がどちらも7割を切って、もうどうにも身動きがとれなくなってます」
 ──われわれに対する説明の仕方がいつも正直でない、という点もそっくりです。
 「戦前からの体質が抜け切っていないのでしょう。この2年、どちらも次々に公金流用の不正行為が発覚するや、同じようにトップだけ変えて、その原因隠し、責任逃れの競争をやってきました。いまや、どっちが先に潰れるかの競争ですよ」
 ──政府の案だと、社会保険庁という名前は、秋には消えて無くなるようですが、NHKの方はどうなりますかね。
 「たまたまNHKの中堅クラスの何人かと話す機会がありましたが、営業・経理関係の人は、このまま潰れていくんじゃないか、と感じているようです」

受信料不払いの影響

 ──たまたま見たCSのニュースチャンネルに出てきたNHKの元経理マンの人が言うには、受信料の不払いの影響がほんとに出てくるのは、来年の決算の時だとか。
 「受信料の銀行振り込みは1年の前払いが多いですから、昨年百万人を越えた不払いの結果が数字に出るのは来年の3月です。この欠損は数百億円を越えるでしょうね。しかも経営陣は、受信料収入の不足を埋めて、当面の決算数字の格好をつけようと、全国の所有土地の売却を次々とやってます。経営委員会も決算が心配だから、渋々この売却案を認めざるを得ないというわけです」
 ──その土地は、もともと受信料で買ったものでしょ? 自分たちの不祥事で生じた不足を、売り食いでカバーするなんてことが許されるんですか。
 「全国で局舎の新築を盛んにやってきましたから、遊休土地がたくさんあるわけです。これは、今後NHK再建の方向がはっきりした時に、その経営資源になるべきものですね。来年の決算が、この特別利益で格好が付いたとしても、今後いつまでも同じ手は使えないでしょう。収支のつじつまだけ合わせようというのは、まさに社会保険庁と同じなんです。こんな姑息なことをやって実態を正直に伝えないと、本当の改革はますます遠のきますね」
 ──4月に公になったカラ出張問題の影響も、今後出てくるでしょう?
 「営業関係の人は、この問題に対する、視聴者の素早い反応、厳しい態度に改めて驚いています。4月の収納状況は、不祥事が発覚した2004年の実績の9割に落ち込んだそうです。この5月の連休中は、収納率アップを期待していたのに、4月の落ち込みからさらに1割程度落ち込んだといいますから、昨年来いっていた収納率の改善の見通しは大きく狂ってしまった。これは、営業担当者の感覚として、一時的な現象ではなく、長年の視聴者との関係が次々に途切れ、これまであった信頼感がもうなくなってきた、という実感のようですね」
 ──番組をつくっている人はどう感じているんですか。
 「長年報道関係の仕事をやっている人で、NHKはこのまま潰れますよ、と予言的につぶやいた人がいました。政府の諮問委員会、総務大臣の懇談会、与党の委員会などの論議の進め方、受信料の支払い義務化論の無責任なお手軽さ、そしてこれを取り上げるジャーナリズムの無気力と冷淡さに、ほとんど絶望したみたいですね。
 そもそも受信料制度は、幅広い視聴者に支持される“総合放送”という制度を前提に成り立ってきたわけです。それなのに、「報道以外の娯楽は公共性が乏しいから別組織にせよ」というのは、これまでの制度の根本的な否定ですよ。50年間前提にしてきた制度を、半年でひっくり返して平然としているようでは、受信料の義務化も、チャンネルの削減も、とてもまともな再建につながる案とは思えない、むしろ視聴者の不信の拡大につながると見ています」

受信料の義務化は効果なし

 ──受信料義務化案は、罰則を設けるという含みだそうですが、効果は上がりますかね。
 「いまのままのNHKではダメでしょう。何のために受信料を払うのか、さっぱりわかりませんから。目的を伏せたまま、罰則もないという受信料制度は日本独特のものです。これまではそれでやってこれましたが、多チャンネル時代のいまになって、義務化、義務化と脅かしても、それだけでは社会的な納得は得られないでしょう。
 もともと強制徴収というのは、メディアの自由、市場の自由と両立しにくい制度ですね。すでにヨーロッパでは、公共放送の受信料について、欧州連合から各国に警告が出ています。国の権力を背景にして徴収する受信料は、国の援助であり、公正な市場競争を妨げないように、事業範囲と金額を制約すべきだ、という指令ですね。受信料のお手本とされる英国のBBCの場合、商業放送開始以後も、BBCへの絶大な信頼感が続き、高い収納率を維持してますが、その英国でも、いずれはスクランブル化に移行すべきだ、という意見が強まっています」
 ──日本でもCS放送など対価を払うサービスが広がり、対価に見合ったサービスかどうかにいまや利用者も敏感ですからね。となると、NHKの場合、スクランブル化すれば契約は大きく減るんじゃないですか。
 「そこがBBCとの決定的な差になります。これまで政府とNHKは、「受信料とはNHKという組織を支える特殊な負担金」などと、説明にならない説明をしてきましたが、NHKの現状を見れば、「わけの分からないものにお金は出せない」という人が増えるでしょう。現実にNHKをほとんど見ない層も年々増えていますしね。それに、不公平感の是正といっても、ケータイやパソコンなど、従来のテレビでないもので自由にテレビ番組を見られる時代に、物理的にテレビ受信装置の所有状況をすべて捕捉するのは不可能でしょう。これでどうやって罰則を適用できますか?」
 ──実は私の見ているCSのスカパー1は、NHKはまったく映らないんですが、NHKを見る必要をほとんど感じないんですね。ノンCMで、映画もニュースも政治討論も見られますし。しかしCSはすべて専門チャンネルで、チャンネルごとに視聴者の年齢も階層もバラバラですよね。それに加入者の絶対数からしても、たとえば憲法論議のようなことをやるには少なすぎやしませんか?
 「今後は、支払いの制度以前に、公共放送のメリットを納得し、これを支える自発的な意志をもつ人がどれだけいるかがNHK存続のカギを握るわけですね。いま、7割近い視聴者が受信料を払っているという実態は、まだ公共放送への期待が根強いことを物語っているともいえます。ところが、いま出ている義務化案は、視聴者が納得して、それなら払おうという意識が広がることの重要性をまったく考えていません。むしろ積極的な意志をもつ人々の自発性を逆撫でし、公共放送への発言権を奪うものと受け取られますね」
 ──そうすると、受信料制度はどうしたらいいんでしょう?
 「視聴者の義務でなく、まず、NHKの視聴者に対する義務の確立が大前提ですね」
 ──NHKが視聴者にどんな義務を負うんですか。良い番組だ、「NHKだからできる番組」だ、と言葉だけで偉そうにいうんじゃ困りますよ。
 「公共放送が意味のある形で生き残るかどうかは、このNHKの義務の内容を真剣に論議し、具体化できるかどうかに懸かってますね。次回はその義務の中身を考えたいと思います」

草思社