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NHKのウワサ 眞木のぼる×田原茂行
第3回 問いたい、公共放送経営陣の資質
理念なき経営陣

 ──前回はNHKが本質的に改革されず「NHKの焼け太り」に終わるという不吉な未来図をうかがいましたが、そのNHKの内部はいまどのようになっているのですか。クーデター騒ぎなどで右往左往しているリーダーには期待できないにしても、中堅・若手に変えてやろうっていう気運はないんでしょうか。
 「わたしも、そう思うのですが、海老沢体制下で従順なサラリーマンとなりきってしまったお利巧さんたちに、そんなパワーは残っていないという声が聞こえてきます」
 ──私の家内が好きで、NHKも自慢にしていた「プロジェクトX」みたいなのはどうですかね。職場で疎外されていた者の創造力が企業を救うという、あれですよ。NHKにもそういう人はいるでしょうに。
 「もしもいれば、リーダーが駄目なときこそ活躍し、新しい公共放送を創ってほしいですね。体を張ってやれば、誰かがこの流れを止められるはずです」
 ──期待できないリーダーといえば、5月7日の朝、「永井多恵子のあなたとNHK」を見て驚きましたね。成功した外食産業経営者を招き対談していましたが、「どうしてNHKで金銭不祥事が続くのでしょう」と永井副会長が質問するのです。すると外食産業経営者は、いとも簡単に「それは企業の理念がないからです。自分の企業は何のためにあるのか、誰のためにあるのか、分かっていないからです」と答えました。すると副会長は、感心したように深く頷いたうえ、「NHKにも理念はあるのですが……浸透していないのです」と情けない声で言うと、即座に「従業員一人一人との対話です」と返され、またまた感心して頷くというしまつでした。こんな情けない経営者に6千億円もの受信料を預けていいのかという感を深くしました。
 「私も見ました。永井副会長は例のクーデター事件で反会長派の御輿と目された人です。その人にして見識のレベルがこの程度ですから、「まっすぐ、真剣。NHK」くらいのスローガンしか出てこないのでしょう。これでは何の理念にもなっていません。
 そもそも「永井多恵子の」って番組の冠に恥じらいもなく自分の名前をつけるなんて、どうかしてます。かつては、いかに人気があっても、「鈴木健二の……」とか「磯村尚徳の……」などと番組を命名しなかった、またしないのが公共放送の見識であり、けじめだった、それをいったい自分を何様だと思っているのだろうと、知人のNHKOBが言っています」
 ──大体この人は週刊誌によると、就任当時の混乱の中で、「やってられないわ」と口走り、当事者としての責任感のなさにNHK職員にあきれられ総スカンを食ったと言われている人ではないですか。
 「週刊誌をそのまま信じないにしても、今では追従する取巻きもできたのか、公共の番組に自分の冠をつけて登場しているのです。それをまたNHK内部で誰も疑問を呈さないところに病の深さを感じさせますね。
 それに、もし本気になってNHKの根源的な問題に取り組むならば、NHKシンパと対談せずに、鋭い問題意識を持った人々と激論するシリーズにするくらいの気概を持たねば駄目です。そのほうがはるかに視聴者も注目するし、自己PRにもなるでしょう」

経営委員会の罪深さ

 ──そもそも現在のNHK経営陣で、21世紀に通用し、受信料を払って支えようと視聴者に思わせるような輝かしい理念を語る人間はいないのではありませんか。
 「まったくそのとおりです。例えば、3月の放送記念日に放送された「NHKスペシャル」の座談会にNHKの今井解説主幹と原田放送総局長とが出席していましたが、公共放送の理念を問われたとき、もたもたと口ごもり、明快な発言は出ず、他人事ながらこんな事で良いのかと思っていたところ、後日の経営委員会で(NHKホームページ・経営委員会議事録による)、これを見ていた経営委員から、このような機会にこそ「公共放送の信念、未来への希望を情熱的に」主張しなさいとたしなめられていました。無能といわれる経営委員でさえ見るに見かねたのでしょう」
 ──経営委員と言えば、あの最悪の専制・側近政治をしいた海老沢前会長を三選させ、そのうえ重大な経営危機を招くまで彼を擁護し退陣させなかった人たちですよね。なのに誰も責任をとって辞任をしていませんし、こうした判断・決断ミスについて視聴者に対して謝罪もない。この経営センスのなさが問われないのは不思議ですね。
 「経営危機になって報酬カット、退職慰労金の返上などしていますが、そのようなことではすまない責任の重大さがわかっていないのでしょう」
 ──クーデター派から無能と烙印を押された現橋本会長を任命した責任も重大ですね。
 「公共放送のリーダーの資質に何が必要か、経営委員は何もわかっていないのです。そもそも橋本氏を推薦したのは海老沢前会長です。橋本なら技術部門出身で一見自分から距離があるように見えるし、かえって院政をしきやすいと考えたのでしょう。外部の人材ではなく内部からの昇格にこだわった組合もこれに賛同した。結局、典型的内部談合の結果に、経営委員会が辞令を出しただけ、というのがNHK内部に広範囲に流布しているウワサです」
 ──理念も覚悟も問われないままなった棚ぼた会長なわけですね。
 「次回の会長選考にあたってはノミネート小委員会を作るといっていますが、それがどの程度透明性・公開性をもち、どのような基準で選考し、われわれ視聴者を納得させるものになるのか、まだまったくわかりません。経営委員会も口先だけではない改革を言うならば、本気になって新しい仕組みを作らなければなりません」
 ──でもその経営委員がいまのままじゃあ。
 「そうです。経営委員が現在のように官僚や有力議員の談合によって決められているのではだめでしょう。それこそオープンな経営委員選出委員会を作って、その資質・識見・政治的公平性等を公明正大に審査しなければ」
 ──会長を選出する経営委員会そのものの任命に何の透明性もないとは驚きですよ。
 「経営委員の互選で決める委員長も、ほとんどが電力・鉄道・金融など、それぞれ監督官庁に弱く政治に密着している企業のトップです」
 ──しかも電力は原発の欠陥隠し、金融は保険金の不払い問題などを起こしている始末ではないですか。ははあ、そういう人たちが会長決定のイニシアティブをもっているのですね。なるほど、だんだんわかってきました。
 「もしも経営委員が本気ならば、政治から自立した経営委員の透明な選び方を提案し、一斉辞職して出直すくらいのことをしてほしいですね」

橋本会長という人物

 ──ところで、副会長や理事は誰が決めるのですか。
 「それは会長です。ですからNHKでは会長にすべての権限が集中し独裁できるようになっているのです。暗愚であろうと独裁であろうと、株式会社のように理事会が会長を解任することはできません。それは経営委員会の役割です。今回のクーデター計画も、経営委員会を説得するか、クーデター派がそろって辞表を提出して意思表示し揺さぶりをかけるくらいしなければいけなかった。失敗の原因はそれができなかったところにもあったのでしょう」
 ──その相手の橋本会長というのは、結局どういう人物なんでしょう。時々画面に登場しても仮面をかぶったようで人柄がまったくわかりません。昨年末、たまたま彼が歳末助け合いの募金協力のお願いをしている放送を見ましたが、目を伏せてまともにわれわれ視聴者を見もせず、原稿を棒読み。これじゃ人の心は動きませんよね。これで人様にお見せする番組を作っていたとはとうてい信じられません。
 「彼は汗みどろになって番組を作る現場は知らないのです。放送の設備・スタジオ・放送塔を建てたり、放送機器を発注したりする技術局・技術エリートの出身ですから。現場を蔑視し、若いときから膨大な予算を使い、長年随意契約だった出入り業者を相手に君臨してきた部門です。また、その業者には多数の技術局幹部が再就職している。この談合体質には他部門から口をさしはさむことができないと言われています。年末年始には、電子機械業界の人の挨拶でこの部門の役員室周辺はごった返すそうです。
 18年度の予算を見ても、機械・設備費が700億弱、そして過去の設備投資の減価償却費が700億計上されています。あわせて、1400億円、受信料収入の約4分の1をこの少数のエリート集団で使っています。現場の苦しみなどわかるわけがありません。
 放送局の会長でありながら、放送局にとって一番重要な報道と番組のことはわからず、議論や進言が嫌いで、そのうえ決断力がない、というのが橋本会長に対するNHK内部の評価です。クーデター側にも一理があると言われています。
 そのような人物だからこそ、受信料支払い義務化の話が政府与党から持ち上がると、21世紀の公共放送の理念もあるべき姿も、さらに重要なことは、視聴者へのNHKの義務も示さずに、ぬけぬけと「支払い義務化賛成。不祥事は別だ」などと発言するのです。「支払い義務化」というものをちょっとした条文の補完くらいに思っているのでしょう。これは重要な理念の変更なのに、義務化してもらえるならありがたいくらいの認識なのです」
 ──そこで政府にまた恩を売られ、さらに頭が上がらなくなるんですね。
 「支払いが義務化されるとどんな危険があるのか、次回お話ししましょう」

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