Web草思
NHKのウワサ 眞木のぼる×田原茂行
第2回 NHKは焼け太り?
お上の思惑

 ──先日は、この縁側からツツジの花を眺めながら、“NHKのクーデター”なんて物騒な噂の真相をうかがいましたが、ツツジが散っても、NHKについては、よく分からない新聞記事が連日出てますね。
 「クーデターはコップの中の争いでしたが、梅雨に入るころには、お上の方からもっと物騒な計画が出てくると思いますよ」
 ──もっと物騒な計画となると、わが家にいる中年のNHKファンは心配しそうですね。
 「去年は、「NHKは民営化してしまえ」という議論が自民党議員を中心にかなり優勢でした。不祥事という失態を見せたNHKへの反発ですね。しかし役人が、自分の監督する特殊法人を簡単に民営化させるわけはありません。それに民放は、「競争相手が増えてはたいへんだ」と強く反発し、小泉首相が「公共放送は必要と思う」「国際放送は強化すべきだ」とひとこと言うと、「ともかく公共放送は残す」「受信料は義務化」という流れになったようですね」
 ──民営化なんていっても、年配の視聴者には、わが家だけでなく、公共放送が必要だという意見の方が強いでしょうね。しかし公共放送っていうのはそもそも何なのでしょう? 韓国では広告収入による国営放送がある、という新聞記事を見ましたが。
 「収入の形態だけで公共放送と見なされるわけではないですからね。要は中身なんです。私がいまいちばん問題だと思っているのは、政府関係者も議員も、だれもこれまで民営化とは何か、公共放送の役割とは何かをまじめに勉強し、論議した気配がないことです。1月から始まった竹中総務大臣の諮問機関、「通信・放送の在り方に関する懇談会」(座長・松原聡)も、たった半年間しか開催予定がないんです。それだけの検討で、放送・通信の融合時代の改革案をつくると豪語しているのですから。しかもこの懇談会には視聴者、識者の意見をしっかり聞く意思も体制もまったくない」
 ──大臣の私的諮問機関ていうのが何でそんなに権限をもっているんですか?
 「この諮問機関は、大臣が、事業当事者ではない素人8人をメンバーにしたことが特色のはずなのに、1月に初会合を開いた時点で、すでに主な論点ができあがっていたのです。これは総務省の役人が、「放送と通信の融合」というお題目を看板にしてまとめたものにすぎません。論議の大枠もこのときに決まっていた。ですから、NHKと国会の関係、経営委員、会長の選び方、視聴者への情報公開の在り方など、肝心の点はハナから議論の埒外にされてしまっているわけです。それにしてもいま世界を見渡しても、政府と政界の一部の思い込みだけで放送制度の改革を考える国はないでしょうね」

放送と通信の融合って?

 ──新聞の見出しを見ると、その諮問機関のNHK改革案は、経営委員の常勤化、チャンネルを減らす、関連会社のスリム化などですね。
 「ガバナンスの強化などと英語を使っていますが、公共放送の理念も、組織の抱える基本問題もつかんでいないから、ほんとは何を検討すべきかが出てきません。経営委員の常勤による監視機能の強化といいますが、経営委員は経営者であってお目つけ役扱いは基本的に間違いです。また、チャンネル削減といいますが、もともとハイビジョン専門チャンネルは終了する予定なんです。問題は、その終了したあとチャンネルをどう活用するのか。そういう提案が必要です。既存のチャンネルは政府の私物ではなく、受信者がお金を投じてきた資産ですからね」
 ──「放送・通信の融合」っていうお題目もよく分かりませんね。わたしなんか暇人ですけど、ケータイでテレビが見られるようになったと言われても、そうまでしてテレビを見る気にはなりませんね。一体“放送と通信の融合”ってのはどういう御利益があるんですか。
 「竹中大臣はいつも、日本の放送、通信産業は規模が小さい、“放送と通信の融合”時代に、アメリカ並みに巨大産業にすべきだ、と言ってます。しかしアメリカの巨大通信会社と放送会社の統合は、成功例がまったくないと言っていいでしょう。報道機能の無残な衰退を含め、放送局の活力の低下はもう歯止めがかからないところに来ています」
 ──これまで日本では、ホリエモンのライブドアや楽天による放送局の株の買い占め騒ぎがありましたね。
 「もしIT事業者が、放送局の経営権を握った場合に、放送の公共性はどうなるのか心配だという議論もありましたが、その心配をするためには、現在の放送の公共性の仕組みを充実したものにする必要がありますね。いまのNHKも民放も組織の利益中心主義にどっぷりつかっている点ではまったく変わりません。その在り方を放っておいて放送・通信の融合だと言っても、放送とIT事業者が事業拡大の新しい手段に利用するだけでしょう。双方向機能を、放送の公共性にほんとに役立てるためにはどうするか、という発言をまだ聞いたことがありませんからね」
 ──3月に、NHKの「テレビは誰のものか」という特別番組に出演した松原座長は、インターネットによる放送の拡大で、だれでも放送局になり、だれでも全国・世界に情報発信ができる時代が来るというバラ色の未来を語ってましたが。
 「これまで、日本の公害や生活の実態を伝えてきた地域局は、すでに制作体制を切り詰めつつあります。新しい技術の力を野放しにすれば、地域免許で生まれた放送局はそのまま追い詰められます。技術革新と文化を両立させるには、その前提として、日本の放送市場の実態をよく勉強して、放送の公共性を擁護する制度をつくる必要がありますね。知識と思慮を欠いた安易な放送・通信の融合政策は、アメリカの規制緩和の実例のように、放送の公共性を取返しのつかないほどに解体する可能性があります」
 ──何か対策はないもんでしょうか?
 「ううむ。いろんな意見は出ているようですが、抜本策と言えるようなものはないかもしれませんね。いずれこの欄で話し合ってみましょう」

結局は焼け太り

 ──いま新聞を見ていても、放送制度改革の何がどう進んでいるのか、さっぱり全体像がわかりませんね。政府はこういってる、自民党はああらしい、などという記事がてんでんバラバラに出てくるだけです。受信料制度やインターネット放送の問題点を掘り下げて議論する記事も見当たりません。どうしてなんでしょうか。
 「大新聞は、民放キー局と一体化していますからね。そのキー局にすれば、政府がいま考えている集中排除原則の規制緩和策はとても都合がいい。放送・通信の融合も、放送である自分たちの利益になるのであればそれでいい、くらいの認識しかありません。キー局側がそういう考えですから、キー局と一体化した新聞にも、視聴者の利益のためには、いま進行中の制度改革の方向は問題だという意識は皆無です。だから、現場の記者も、全体の動きを判断するだけの勉強をしていない人がほとんどですね」
 ──そんな状態で、放送制度改革の論議から意味のある結果が出てくるんでしょうか。
 「いまのままならNHKは、表面的にスリム化しても、政府、与党、世論の動きの中から“いいとこ取り”をして体制の強化をはかり、むしろかなり焼け太りする可能性がありますね。受信料の義務化、国際放送の強化、放送と通信の融合による事業枠拡大などが可能ですから」
 ──へえ、焼け太りですか。まさか、そんな改革が通るほど視聴者を甘く見ちゃいけませんよ。

草思社