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NHKのウワサ 眞木のぼる×田原茂行
第1回 “まっすぐ、真剣。NHK”の行方
ある視聴者とテレビ事情通の対話

 ──NHKはいまも、“まっすぐ、真剣。NHK”っていう自社PRを放送してますね。あれはなんとか止めてもらえませんかね。あの画面がテレビに出てくると、うちの奥方、必ず怒り出すんですよ。
 「確かおたくの奥さんはNHKファンで、奥さんの意見で受信料を長年払っているんですよね」
 ──1昨年のNHKの不祥事騒ぎがあった時に、私は支払いを止めようとしたんですが、うちの奥方が、NHKはいい番組があるから払うんだっていいましてね。ところが先月、新聞にNHKスポーツプロデューサーのカラ出張記事が出てからの“まっすぐ、真剣。”のPRには腹の虫が収まらないらしいんですよ。
 「お宅の奥さんだけでなく、NHKの視聴者センターにはあのPR広告について「すぐ止めろ」「気色が悪い」「ウソをいうな」という電話が相当な数来ているそうですよ。一人で1760万円、しかもこの5年で240回もの着服が発覚した後ですからね。
 これまで「不祥事の再発防止」「法令遵守」という会長の説明話を信じ込んでいたNHKの経営委員会も、カラ出張の報道を新聞で知って、全員血相変えて怒ったようです。顔に泥を塗られたという思いだったんですね。着服した金を返すだけでなく、「カラ出張の日の給与も全部返させろ」と言った委員もいたようです。経営委員会に叱られた橋本会長はすっかり動揺して、全職員の過去2年分の出張記録を調べろと言い出して、現場の制作者はいま大混乱です。それだけに、“まっすぐ、真剣。”の看板を降ろすわけにもいかないでしょうね」
 ──わたしがサラリーマンを長年やっている経験からいうと、カラ出張っていうのはかなり原始的な不正行為で、何回もやっていれば同僚や上司に分からないはずはないんですよ。出張先で安い部屋をみつけて、わずかな経費を浮かしたりするのはサラリーマンが皆やってることですが、常習的なカラ出張が何年もバレないというのは信じられないですね。
 「海老沢会長時代から、報道局スポーツ報道センターの金の動きにはとかく噂がありましたね。同僚、上司は不正行為を知らないはずはないと思います。「やっぱり出たか」という元幹部もいます。海老沢前会長は「不祥事は、一部の不埓な不届き者の仕業だ」という主張を最後まで変えませんでしたが、いまの執行部も、まず、この判断が誤りだということを認めなければ、今後ほんとの意味での対策は出て来ないでしょう」

内部調査のウソ

 ──それに、今度の不祥事の新聞への発表の後、すぐその内容の訂正記事が出たってのが、なんとも不愉快でしたね。「内部調査の結果」と発表したけれど、「外部の人間から言われて調べた結果」だったというんですから。
 「これは1昨年の不祥事発覚の時とまったく同じパターンなんです。週刊誌が不正行為をつかむ→NHKは確認を迫られるが事実と認めない→週刊誌が記事にして印刷所に回し、中吊り広告が出来上がる→NHKは週刊誌発売直前に急いで記者会見を開く→そこで不正行為は内部調査で分かったと発表する→ところが実は、外部取材の結果であることが分かり、放送記者がその後追いをする。“新生NHK”といってもなにも変わっていません」
 ──松下電器が、全国のガスストーブの不良品を1台残らず回収する姿勢は、企業の在り方として感心させられましたが、それに比べて公共性を売り物にする放送局の不祥事の対応としては、あまりに幼稚な感じがします。それにしても、調べればバレることが分かっているのに、どうしてこうも最初から内部調査という発表にこだわるんでしょうかね。
 「記者会見で内部調査によるという公式発表をした数日後に、自民党の通信・放送担当議員との会議で早耳の議員から疑惑が出されたんですが、「内部調査にクビをかけるか」と詰め寄られた時に、NHK幹部はガン首そろえて頷いたそうです。
 実はこれまで、NHKの現執行部が内部調査だけで不正行為を発見し、公表した事例はあまりないんです。去年の8月に、経営委員会に対し、スポーツ報道センターのソルトレークオリンピックの入場券の不正換金の摘発と、福井放送局のカメラマンのビール券の換金・着服の処分が報告されたことがあります。珍しい発表でした。この報告を受けた経営委員の一人が、「不正がどうやって発覚したのですか」と聞くと、会長は、「業務点検によって明らかになりました。いま取り組んでいる経理面でのチェック体制が機能してきていると考えます」と胸を張って答弁をしています。翌9月発表の「新生プラン」の前書きには、「何よりもまず内部規律を強化し、不正に対する厳正な処分と公表を行っています」と書かれています。新会長体制にとって不正行為の自己点検による“自浄、自律”は、組織防衛と自己保身のために欠かせない一枚看板なんです。だから“真剣。”ですよ」

なぜ自浄できないのか

 ──しかし5年間ものカラ出張がいまになって発覚したということは、実際は組織的な“自浄、自律”をやってこなかったということになりますね。
 「その通りです。いま、NHKの改革について、政府も与党もNHK幹部も、いくつも会議や委員会をつくっていますが、海老沢会長時代に表に出た不祥事問題の徹底的な解明を、だれも、まったくやっていません。今回は報道局ですが、芸能関係では、「爆笑オンエアバトル」プロデューサーとDVDの制作会社との金のやりとりがいま問題となっています(4月26日各紙)。すでに被告人として裁判を受けている元芸能局の磯野プロデューサーは、「制作費の還流によるプール金は上司のやっていた慣習だった。これがないと仕事が進まない」と証言し、制作会社側も「制作費の還流は慣行だった」と証言してます。NHKはこの証言に対し、「その事実はありません」という談話を記者クラブに配っていますが、こうした紋切り型の説明で済ませていい問題じゃないですね。これで、官庁の不正契約や民間の偽装工事を批判するニュース報道をやっても、白々しい偽装のように見えてしまいますね」
 ──トヨタ自動車から幹部を一人入れるという噂がありましたが、外部から幹部一人が入っても、かんたんに成果を上げられる状態ではなさそうですね。
 「長年広がった組織の病状は、局所の切開や対症療法の前に、体質の根本的な改善が必要ですね。昨年新体制に変わって、若手の幹部が登用され、最初は自分の言葉でしゃべっているように見えたのに、数カ月後には、聞かれたことはすべてはぐらかし、「その件につきましては、現在取り組んでいるところでございます」と、役人以上に役人言葉をしゃべれるようになっていた。これには驚きました。古い巨大組織の作り上げた体質の恐ろしさです」
 ──会長を変えるクーデターの噂が週刊誌に出たことがありますが、あれはホントだったんですか。会長が変われば広告も変わるんじゃないかと、うちの奥さんは期待してますが。
 「いや、残念ながらクーデターは不発に終わったようです。数人の理事が、自分の言葉でなにも語れない現会長を、別の理事に変えようとしたわけですが、計画の参加者でなければ書けない正確なメモが会長の手に渡り、会長が先手を打ったといいます。しかし、JALではありませんが、クーデターも現場の支持が必要なんです。いまの理事で現場の支持のある人はあまりいません。かって海老沢時代は怪文書による騒動がありましたが、今度は、支持者の乏しいクーデターを画策するような状態では自己改革は不可能ですね」
 ──では、受信料支払いをどうしたものか。それをわが家の奥方もうかがいたいはずです。

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