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あなたも恋愛小説を書こう──ラブという謎 内田春菊
第2回 「もう! あいつったら、憎たらしい!」
lovestory02.jpg 前回本当は、最後に、
 「あたしと仕事とどっちが大事なの」
 というセリフは間違っています、正しくは、
 「あたしのことと仕事と両方こなせるように、脳梁を太くするよう努力して!」
 でないとね!……かなんかでまとめようと思ってたのに、書き出したら全然違う方向に。これだからこういう仕事って恐ろしいね。え、脳梁? ほらあれですよ、右脳と左脳に渡る橋だっけ? 女のほうが太いってやつ。これが太いほうがいくつものことをいっぺんに出来るのだそうですよ。そう言われると聖徳太子って女っぽいよね、山岸凉子さんの漫画はほんとだったのかも!?

男は同時に二つのことが出来ない

 だってもうほんとに男の人の、一度に一つしか出来ない感じってすごいです。私はユーヤがスポーツ新聞やニュース見てるときは「これは人でなくてオブジェ」だと思って話しかけないという法則を身に付けました。最初は、
 「ちょっとなんで返事しないの!?」
 とびっくりしたものだが……。キッチンからだとスポーツ新聞読んでるのが見えないこともあるので、話しかけて返事がないときは、「あ、新聞か」と思うように……。私も慣れてきたもんです。くくく(ちょっと泣)。でもね、ユーヤはユーヤで、前にくらべたら二つ以上のことをずいぶん出来るようになったんですよ。
 それでも私が、幼稚園のおかあさんがたと小冊子なんかの打ち合わせで材料を見ながら談笑してて、で、ユーヤが加わって、
 「これに絵描くんだよ」
 と渡したとたん、無言になるのでおかあさんがたは「?」というような顔に。ああそうか、と私が、
 「あ、この人男だから、読みながらだと話が出来なくなるんです」
 と安心させてあげたりしている。ユーヤもしょっちゅう私に言われているので、ちゃんと、
 「おれ、一度にひとつのことしか出来ないんですよ、男なんで」
 と言う。おかあさんがたやや納得。でも、ふだんはそういう仕事に男の人がまざってくれることはほとんどないわけだし、私みたいなのからずけずけ言われたら怒り出す男も多いんだろうから(まあそういう人には言わないけどさ)、こういうのっていいことだな、と思う。

訓練すれば、脳梁は太くなる

 スポーツ新聞を読みながらの会話に関してはかなり難易度は高いようだが、他の事に関してはユーヤはそれなりに努力してきました。家事とか育児って、それ自体がひとつのことだけやってればいいって仕事じゃないもんね。日々訓練よ、訓練。
 だけど、
 「あなたは仕事だけしてればいいのよ」
 なんて言ってると、脳梁は細いままで、家事育児の手伝いどころか、帰ってきても妻の話すら聞かない夫が出来上がるってことです。
 「あたしと仕事どっちが大事!?」
 と迫る女はもしかしたら、男を仕事と家事育児両方の出来る夫にしようと早くから考えているタイプなのかもしれませんよ、なんちゃって。ただの自分大好きのお姫様的うざキャラかもしれないけど。

その自分大好きキャラですけど

 25人に1人、良心のない人間がいるらしいって怖い話があるが、私は25人に1人、自分が大好き過ぎる人間がいるってことじゃないのかな、ってもっと能天気に考えてみてる。
 私はあるとき、ある男から、
 「こないだPさんと偶然会ったとき、Pさんの隣に2人女の人がいて、1人は俺好みのモデル風美人だったんだけど、もう1人がデブでなんか○○な感じだったんだよね。でもあっちのほうがPさんの奥さんかなあ」
 というセリフを聞いたことがあり……ひええ、えらいこと思い出しちゃった、ほんとに聞いたんだよ……。私はそのPさんと奥さんがどっちも好きだったので内心すんごく気分を害したのだが、私みたいな人間によくまあそこまで油断して言うなあと少し感心してしまい、ここで私が黙ってたらいったいどこまで言うだろうという好奇心が起きてしまって抗議できなかった。
 その人なんかは、きっと自分がだ?い好きなんだと思います。これずいぶん前の話なので、その頃この人20代前半。どっすか? その年頃の人気者としてはこのくらいアリですか?
 別の人気者(やはり同じくらいの年齢)は、
 「セックスのとき女の人20回くらいいかせた」
 とか言ってたぞ! わあもう、ヤバ! みんななんであたしなんかにそんな話するんだよう! 貴重な経験ではあるが、恋愛小説には使えない……。そんな夢をぶち壊すようなシーン、小説にはなっても恋愛小説には……なるんだろうか?

濃い話は集まるが……

 何度も書いたことではあるが、私は初対面の人からもそういう名前言ったらヤバい人気者からも、
 「そんな話しちゃっていいの!?」
 というような話をよくされます。内容の善悪、老若男女問わず。でも、この連載的に言うと、
 「だからと言ってもてているわけではない」
 のです、残念ながら。本気で深い関係になりたくて話している人もいるのだろうか? 最近やきもち焼きのユーヤは、
 「なんで知り合ったばっかしなのに、そんなことまで話してんの?」
 とか言ったりもするし、そういう気持ちもわからないではないけど、まあでも話してる本人は、その時は自分がなんでここまで話してるのかはわかんないでいるんだとは思う。
 しかし、最近この性質(と、それにともなう法則)を利用する人がいるから気をつけなきゃ、と思うようになった。昔からいたんだけど、以前はこういう考え方は出来なかったのです。
 たとえばもうずいぶん昔の話ですが、会社の飲み会で突然、
 「実は僕、クオーターなんです。ポルトガルの」
 とか言い出すバイトの人(今の言い方だとロンゲのイケメンってやつだったかもしれない)とかがいても、ネタだと思って笑い転げてた。ところが彼はそのあとどんどん行動が怪しくなっていったのだ。向こうは、
 「自分のこともうわかってくれてるはずですよね」
 って顔してるんだけど、いや、それとこれとは違うから。君ただの使えない人になってるよ、って普通に注意してたら裏切られたような顔になって辞めていく。なんでだ? へーんな人、と昔は思ってた。
 ところがここんとこ私がはまりにはまっている、光文社新書『ハラスメントは連鎖する』(安冨歩・本條晴一郎著)で目からウロコ百枚!
 まず、この本に出てくる「甘え」の定義。
 「関係の濃さを超えて依存しようとすること」
 つまり、関係の濃い間柄なら、その濃さに応じて依存することは当然どころか必要なこと。しかしその判断がずれてる相手だと、こっちは「甘えんな」となる、と。おお、ほんとにそうだよ! ああスッキリ! そういえばその昔、
 「なんか、あたしこんなことまでやんなきゃいけないわけ?」
 と言う感じの仕事を頼んできた人に、
 「やりたくないです」
 という意志を伝えたら、
 「おい春菊、おれらそんな仲じゃないだろ?」
 と言われ! ど、どんな仲? とも聞けず逃げたことが(何もしてません)。これは、とてもずさんな例ですが。
 つまり濃い話のあと変になる人は、自分が甘える下地を作るためだけにその手の話をしているのであります。バイトの人とかの場合は笑っていたが、「まさか、これほどの人が」という人も同じことを仕掛けてくることがあるので、びっくりするというわけです。
 そのあまりに魅力的な状況に、男女問わずそのままファンやら遠距離母とかになってしまいそうです。しかし、よく気をつけて見てると、相手は私のほうは自分の話が出来ないように、それとなく封じてしまっているのです。この辺無意識とはいえ巧妙(中にはすんごく判りやすく、「春菊さんそんな話やめようよう」などと言う人もいましたが)。
 ああ……そういうことね、別に私が好かれているわけじゃなく、「おれの園」「あたしの園」の住人を増やそうとしてるだけか……とそのうち気づきます。がっくり疲れますが、私も子ども4人もいるので気づかない訳にはいきません。

だから、ハラスメントなんですよ

 『ハラスメントは連鎖する』によると、親子、恋愛、仕事関係と、人が2人以上いればどんなところにもハラスメントは発生する、それはもうまんべんなく、とのこと。
 発生する図式はこうです。まず、AとBが知り合って、お互いのデータを入力し始める。小さな目線の動き、相槌をうつときなどの細かいリアクション、そういうものも細かく入力していくのだが、途中から突然、AがBに関しての入力を止めてしまう。これがハラスメントの始まり。何故かと言うと、Aは、
 「Bはこういう人ね、もーわかった。もうBはこうだからあとの情報はいらんわ」
 と思っているわけで、会話してても、心のこもってないものになっていくし、なんか、変になるわけだ。だって、
 「あーもーあんたはもうこうだってあたしは決めたんだからさー、それ以外のことは認める気ないんだからねこっちは」
 って態度なんだから、Bが不安になっていくのは当然なのだ。Bは混乱し、
 「なんか悪いことでもしたのかな?」
 とAの顔色をうかがうようになっていく。そしてそのまま進めば悲しい気持ちのままのBはAの言いなりってわけです。
 ねえ、ほんとにいろんなところにある。
 「おまえ一応俺の女なんだからさー」
 とかいう超わかりやすいケースも、きっと今もあるんだろうな、日本のどこかに。いや、結構あるのかも。男がハラスメントを仕掛けるケースばかりではないんでしょうが。でもね、相手が異性なら、付き合ってて、体張って仕掛けてくるんならまだいいよね、文句言えるもん。リモートコントロールとか、付き合ってもないのに操作しようとするのは止めて欲しい。それはタチ悪すぎだと思うよ。結構いるけど……。
 でもまあホステスとかホストの技ってのはほとんどそれなのかもしれない。だってお客のことなんか好きでもなんでもないのに思い通りにしたいわけで、つまりは深い関係になんかなってらんない(なりたくもない)わけですから。

気づいたら対策はあるが……

 そういうハラスメントを仕掛けてくるひとたちは、無意識なので、自分のことを悪人だなんてまったく思っていないそうです。それどころか、そういう人はまた別の誰か(たいがいは親)から似たようなことをされて、その法則が染み付いている可哀想な人とも言えるらしい。でも同情したり、気の毒だからその悪循環から助けてあげようと思ったりしちゃいけないらしい(それは「余計なお世話」なのだそうです)。ただ、
 「ねえなんでそんなことすんの? なんか、やなんだけど」
 って「やなこと」を話すのがいいらしい。そこで、ハラスメントを仕掛ける人の特徴「人に謝れない」がたぶん出てくることでしょう。出てくるよきっと! 100パーセント出ると思うよ私は!
 そういうわけで、
 「ん? なんか変」
 と思ったり、抗議したり出来る人はまだいいのでした。しかし、そういう人が寄ってこないようにする方法なんてあるのか? 私は、自分がよくそういうのにひっかかるから言うのではないが、気づく方法(アドバイスや経験に基づく)はあっても、近づかないようにする技のほうは、いくらなんでもないような気がするのです。
 だって、ほんとに巧妙なんですよ。そういう人はそれに人生賭けてますからね。
 「自分の魅力を試してやれ」
 とか考えてやってないと思う。蚊は、
 「あ、うまい血の流れていそうな生物発見。よし吸ったれ」
 とかいう意志もなく、炭酸ガスなどの化学物質に釣られてふらふらと人間に近づき、「気が付いたら刺していた」という生き物らしいが、きっと本人的にはそんな感じなのだと思う。
 しかし、これは私の考えですが、蚊の反応する「炭酸ガス」に似た物は、「怒り」ではないかという気がする。たとえば自分より恵まれているから頭にくる、美しくてしゃくにさわる、自分より色んなことに自由に見えて足を引っ張りたくなる、などの怒りが誘引になっているのではないかと最近うっすら思ってる。だから、どこでその地雷を踏んじゃうかわかりません。相手がどんなに気が弱そうでおどおどして見えても、あなたに対する怒りを感じていることは確実にあります。

怒りが恋愛を呼ぶ?

 だからあの、少女マンガでよくある、
 「あいつ何あの態度! ひっどーい! 気にいらなーい! でも、いつのまにやら目で追ってるの……」
 ってのはまあ、そういうことではないかと思うんですよ。ああ……こんなこと言ってたら、恋愛のすべてがハラスメントのように思えてきてしまいました。そうなのか? 振り回される悦び? とそんなところで今回は綺麗にまとまりました。
(了)

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