Web草思
あなたも恋愛小説を書こう──ラブという謎 内田春菊
第1回 あたしと仕事とどっちが大事なの!?
lovestory01.jpg Web草思をご覧の皆様、お久しぶりです、内田春菊です。
 前回の創作論の連載、「触媒に愛を?こう見えても作法アリ?」は、『作家は編集者と寝るべきか』というタイトルの本になって絶賛発売中です。このインパクトのあるタイトルのおかげで、私の担当編集者のその彼女とかに、
 「あなたの彼内田春菊の担当なんでしょ、大丈夫? 寝たりしてない?」
 などと忠告してくれる人とかがぽつぽつ現れているらしい。おーい……。そういう人は、ぜひ本をちゃんと読んでから心配してね! そしてあんたが思うほど友人の彼氏モテないよ! あたしだってモテないさ!
 しかしこんなモテないあたしに、恋愛小説を書けという依頼をしてくる人がいる。で、少し前、どうにか頑張って一冊は出しました。初の恋愛短編集、『気がつけば彼を見ている』(中央公論新社刊)。でもなんか、またもや体験談集と思われて終わったような気がする。セックスの代わりに相手から肉片10キロ切り取る話とかは短編集に入れてもらえなかったからかな? それだけじゃないか……。
 だけどさあ、もう私も四十代後半どころか50間近だってのに、体験だと思うほうに無理があるよな。思いたがるほうに問題があるよ。なんか思いたいわけでもあるんだろうけど。今年からは体験だと思い込む人のほうを責めてみよう。何でも自分に原因があると反省ばかりしてては誰かの思う壺だわ。
 そしてまだ恋愛小説の依頼は続く。言っときますが私、
 「恋愛漫画描いてください」
 という依頼は受けたことがありません(たぶん)。なぜ恋愛小説(とエッセイ)だけ書いてくれって人がいるのだろうか?
 なんかだんだん、その依頼をしてくる人と付き合うのを止めたほうが早いような気もしてきたが、とりあえず恋愛小説を書けるようになりたいものです。皆さんも、書けるもんなら書きたくないですか?
 と、そういうわけで、今回の連載のテーマは恋愛です。だからなんと、恋愛論です! 閉経間近で枯れかけてるってのに……。いや、枯れかけてるからこそなのかもしれない。思えば、若い頃は恋愛をテーマに文章書いてくださいと頼まれても、
 「よくわかんないから、セックスをテーマでいいか」
 と頭の中で迷わず変換してきました。私の頭の中には民法的センス(「民法の基本は金とセックス」と教えてくれた古い知人がいて、今でも私はそう思ってる)はあっても、恋愛を考えるセンスはなかったと思う。
 その上、最近知ったことなのですが、世の中では、肉体関係がなくても、感情移入をしただけで「恋してる」という言い方をするときもあるようなのです。
 まあ言ってしまえば、大人になっても中身は子どもでいられるわけですが、子どもの部分の配分を誤るとはた迷惑ですし、たとえば私は実際会ったこともない人をなんとか様とか王子とか「○○クン、キャア」とか言ってるいい大人はとても苦手で、出来ればそういう人にはそばにいて欲しくないのです。セックスもしないのに「恋」……。静かにやってくれるならいいけど……。うーむ……。
 こうなったらもう、私にはお手上げです。何が恋愛なのかまるきりわからん。しかしここであきらめては、需要がけっこう多いらしい恋愛小説を書けなくなってしまう。これはもしかしたら大変。それでなくても書けないもの多いのに、書けそうに思われてるものまで書けないのは70歳まである住宅ローンに関わる(こんなこと言うところが恋愛小説家に向いてない気もするが)。なので、前回と同じく「自分のためのわがまま連載」パート2です。
 恋愛のことを思いつくまま(ぼけたり忘れたりする前に)書き出して行って、おおそうか、だったらこうすれば、というものをつかもう! そして今後の糧に! 運が良ければあなたのためにもなるかも!

ホステスは客と恋愛しません

 たとえば私は漫画家になる前、かなり長いことホステスをしていましたが、とってもダメホステスで、全然人気ありませんでした。それもそのはず。私には、
 「恋愛してる振りをして、客をその気にさせて店に来させるのがホステスというもの」
 という思想が欠如していた。
 ダメじゃん! と思った人、あなたは水商売向きです。すぐホステスかホストになって下さい。年? 関係ないよ、みんな嘘言うから。容姿? いや、店の照明暗いから。
 しかし誓って言うけど、ホステスもホストも絶対にお客と恋愛なんてしません。風俗のほうはよく知らないけどそっちもほとんど同じだと思う。なんとも思ってない人にもその気にさせるようなことを言える人がホステスやってるだけ。
 そしてそういう店に行くことがある人は、ホステス(ホストも)のことはなるべく好きにならないほうが良いと思う。だって普通、
 「この人と仲良くすればこんなメリットが」
 というようなことしか考えてない人のことを好きになったら絶対、不幸になります。むこうは仕事なんだからさ。
 お店に行ってお金を払ってさえいれば、気のあるようなことを言ってくれるから、またその気になっちゃうんでしょうが、お金ですよ、お金を払ってることを忘れちゃだめだ。相手が見てるのはお金だけです。お金を持って店に行ってる間は逃げていかない恋人。それはとっても内気な人の恋愛なのかもしれない。
 だけどそういう職業の人でなくったって、いるんだよねー……。気をつけたいものです。どうすれば、自分自身が好かれてるかどうかわかるんでしょうね? 知りたいね。

さて、今回のメインテーマは

 「仕事と恋愛の両立」です。タイトルにはよく言われるセリフ、
 「あたしと仕事と……」
 をあげましたが、私はこれ言ったことないので、あくまで定番なのかなと考えただけですが、でもほんとなのかなあ? 男が勝手に作った話にも見える。
 その昔、ティッシュペーパーかなんかのCMでですね、
 「今日は天気がいいので、彼は会社を休んで私と一緒にいてくれました」
 とかいうのがあってですね! もうすんごい前なんだけど、なんか二人で海かなんか行ってる絵だったかな? その頃も私はこのCMにとってもびっくりして、
 「アリなのか!?」
 というエッセイを書いたことを覚えてます。だって、「お天気だから会社休み」なんですよ!? それ上司に言うわけ!? 嘘ついて休むわけ!? どっちにしてもまずいだろう! ものすごく有給とかに甘ーい会社があって、当日くれたとしても、そんな男、会社の中でどういう状態よ!? 信用されはしないでしょう。普通。
 そしてそんな男に喜んでいる女は、いったいどういう女なのか。この女こそ、「あたしと仕事とどっちが大事」とか言いそうですが、ほんとに先のこと考えてないよね。結婚とかする気はないのかもしれないが、この先養ってもらうかもしれない男の会社での立場を悪くして喜んでんだから。それとも男のほうに家庭に入って欲しい女なのかしら?
 「そんな難しいことまで言わなくても、気分よ、気分」
 とかこのCM作った人から言われちゃうのかな。まあそうなのかもしれないが。そしてたまには仕事をワヤにして彼女と一緒にぷらぷらする日があってもいいのかもしれないが(私はヤだけど、そんな男。実際いたけど。嘘までついて会社休んだの。ぞっとしたよ)、でもこういうタイプ、女には多いかも。
 彼氏出来て働かなくなる女の多いこと(当社比)! びっくりします。それも、
 「彼氏がこう言うので帰っていいでしょうか。なんか断れない感じなのですが……」
 と相談はせず、黙って帰る。しばらくは、仕事あるのになんで帰っちゃったのかこっちにはわからない。
 地方から出てきてアシスタント業についたため、私の部屋に居候してたある女なんか、毎日毎日私がいないときに長電話して、びっくりするほどの電話代を私に払わせたかと思うと、
 「コンビニ行ってきます」
 とか言って一時間以上も帰って来ない(ケイタイのない時代のことです)。でも絶対に、
 「彼氏出来ちゃって」
 って言わないの。たぶん私が男いても仕事に手抜かないから言えないのでごんす。そんなやつは地元で働いてろっての! 田舎者の男こそ、言うなりになる女だけが大好物なんだぞ。
 う。また恋愛論から遠ざかっている。いかんいかん。軌道修正。
 というわけで、つきあってる男は、たいがい仕事の邪魔をします。女が忙しいのは気に入らないって男は(たとえ口ではそう言ってなくても)むちゃくちゃ多いです。なので、
 「今仕事面白いから彼氏はいいや」
 って話はとてもよくわかる。いや自分ではそう思ったことないけど、とにかく邪魔はすごいんで、わかります。私がそう思ったことないのは、私の中には、
 「男に今の私の仕事を邪魔される筋合いはない」
 というゆるがぬ柱があるからです。つまり仕事邪魔する男とは別れるつもりでいるから、邪魔されると猛烈に抗議するのであります。しかしまあこれももちろん生まれたときからあったわけではなく、いろいろあってそうなったんです。

逆バージョンの謎

 ところが最近、仕事に打ち込むあまり、何年も彼女がいない人と二人も知り合いました。デザイナーのN.Y.氏と、俳優のわあ、こっちもN.Y.だ! まぎらわしい! 読者の皆さんはイニシャルがN.Y.だと彼女出来ないのか、という風に読み取らないように。俳優のほうは芸名だし。
 デザイナーN.Y.氏のほうはとにかく忙しく、ろくに家に帰っていない。なのでゆったりした食事とかお風呂とか、あんまり人間らしいことはしていないが、すくすくと181センチに育ち、陽に当たってないので色白の、目のパッチリした、何話しても良く笑う(よく笑うのは寝てなくてハイだからというのもあるようだが)三十代の好青年です。その柔らかい人当たりからして、私が、
 「もしかして女の人と付き合うと、『私の言うこと聞くはず』って思い込まれて振り回されるほう?」
 と聞くと、
 「そうですね、最初は試練だと思ってがまんするんですけど……」
 ということだった。とにかく今仕事の依頼が予想を超えて集中しているので、それを誠実にこなすのが第一と考えているもよう。
 もう一人の俳優のN.Y.氏のほうは、小麦色、ジムできちんと作ったボディ(体脂肪3から5)、186センチ、はっきりした顔に、ビューラー使ってんの? って聞きたくなるようなまつげの三十代。
 「まず俳優としてひとり立ち出来ることを優先しようと思ってます。殺陣、三味線などの習い事もしていて、それも仕事のためです。好きな人が出来るとそれらがおろそかになってしまうので……」
 この二人はもちろん(たぶん)ゲイではありません(まあゲイでも、恋人いるいないの話で同じように話してもらって構わないんだけど)。
 あと時を巻き戻して、私の同居人ユーヤも、私と会ったころ三年くらい彼女いなかった。182センチ、32歳。仕事も好きだしバイトもしてたし、合間にせっせと飲み会行ってすんごく楽しそうだった。
 そして私の周りには、仕事ばっかりしてて、彼氏のいない女の知り合いも何人かいる。彼女たちは二人のN.Y.氏や昔のユーヤと同じように、恋人いないからって全然あせっているようには見えない。
 こういう人たちを見ると私は、育ちがいいんだなあと思う。実際、親御さんや、親戚、兄弟などと普通に仲良く出来ている人たちのようだし。
 親に愛されていない人間は、恋人が複数になることはあっても、恋人がいない隙間が出来るのには耐えられないんじゃないだろうか。次々と相手が現れたり複数になったりする人を、「モテる」とか言って羨ましがる人もいるが、本当は結構可哀想な状態なのでは……。
 自分でも、相手が複数になってしまうときって、最初の相手のこと、
 「ああ、この人はもう私に細かい関心を持つことを止めてしまったのだ」
 とうっすら悲しんでいるときなんですよ。「細かい関心を持つのをやめる」どころか、「わたしを利用することしか考えなくなっちゃってるよこの人」なんて時もあります。ひー。しかし、実の親がすでにそういう状態なんだから、相談なんて出来るわけもなし。そしたらどうするかっていうと次の男をなんとかするわけです。もちろん次のその人がいい人である保証は全くなく、傷口に塩を塗るようなことも多いのですがそれでも親に相談出来ないのでまたもや次を探すわけ。こうやって望みもしないのに人数だけが増えていき、心ない人に「ヤリマン」だの「公衆便所」だの「ファザーファッカー」だの言われちゃったりもします(その上「あの小説のタイトル付けたのは自分だからさ」まで言ったりとか……タイトル付けたのは私だっつの。あんたは私をただ傷つけただけ!)。
 だけど、そんな悪口なんて気にしちゃいられなかったです。数撃って自分のことを思ってくれる人に当てないと。親がそうじゃなかったんだから。それは私にとって、「仕事の次」とかの話じゃなかった。どっちもやってないと、ダメだったんです。
 ああ……またしても書いていくうちに解ける謎……。ワーカホリックなのも、原因は同じか……。
 ほうら、だから、
 「恋って素敵。いっつも恋していたいですね!」
 なんてキャラじゃなかったじゃん私。ダメだよやっぱ、私に恋愛もの。
 こんな私も、恋愛小説が書けるようになるのでしょうか。以下次号。

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