Web草思
文学的なジャーナル Journal Imagined 岡崎祥久
第9回
2000年10月31日(火)

 起きたら14時を過ぎていた。雨ではないが晴れてもいない。これからの季節は晴雨にかかわらず洗濯物が乾きにくくなる──衣類乾燥機があった方がいいかもしれない。たぶん10万円ぐらいするが、ずっと前からほしいと思っていたのだ。
 洗濯機を回しつつ、山菜蕎麦をこしらえて食べた。食べ終えると洗い物も済ませた。掃除機をかけるところまでは手が回らなかった。洗濯物を干し、もういっぺん洗濯機を回し始めると部屋を出た。郵便局と〈住友銀行〉で記帳した。この二つの口座はこのところずっと残高がゼロである──つまり余らせておける金がないということだ。
 駅近くの〈エネスタ〉へ行き、〈はやい乾太くん〉についての商品説明を受けた。その場で買って帰れるわけではなく、設置可能かどうかの下調べが必要だとのこと。ガス栓があるかどうかよりも、排湿できるかどうかがポイントらしい。そりゃまあ排気できないと問題ですからね、と私が言うと、“排気”じゃなくて“排湿”です、ただの湿った空気です、とのこと。どうあれ明日の午後、部屋まで来てもらうことにした。
 市立図書館へ行き、貸出期限の来た本を返却した。次の本は借りなかった。駅前まで戻ってくると〈パルコ〉の〈無印良品〉を覗いたが何も買わなかった。〈西友〉へ行き、衣類用の防虫剤と洗濯洗剤を買った。それから食料品──今日は〈火曜恒例百円市〉だったものだから、ついつい買い込んでしまった。荷物が重くなった。部屋に戻ると洗濯物を干した。どうしてこんなに洗濯ばかりしているのかわからない
 夕暮れになると米を研いで炊いた。今夜は新米だ。おにぎり、味噌汁(宝麩、長ねぎ、椎茸)、煮物(高野豆腐、にんじん、椎茸、ゆで玉子)、ほうれん草のおひたし。
 バスタブに湯を張って入浴した。〈はやい乾太くん〉さえあれば、思うように洗濯ができるようになるはずだ。洗濯物を“干さなくてよくなる”というのがどういうことなのかはまだよくわからないが、少なくとも、この先もずっと干し続けたいとはこれっぽっちも思わない。……野間文芸新人賞がもらえたらその賞金で買うのが妥当なのはわかっているが、もうどうでもよくなってきた。買えばたぶんもらえるだろう。
 くそ! なんだよおい、こんな季節なのに蚊が飛んでるじゃねぇか! そうだ、昨日から何カ所か刺されてたんだ。ちくしょうめ。
 朝の7時まで書き物をしてから眠った。


2000年11月1日(水)

 12時前に起きた。玄関が薄汚れていると恥ずかしいので掃除をした。ドアを拭いたら雑巾が真っ黒になった──外側じゃなくて内側だ。掃除をすれば、ずいぶんとサッパリする。
 13時過ぎに〈エネスタ〉の作業員がやってきた。設置可能だとのことなので、見積もりを出してもらい、その場で依頼した。だがこのところ注文が多く、取付工事は来週の水曜日になるとのこと。今すぐにでもほしいところだがしょうがない。
 雑巾をお湯で洗って漂白し、洗濯機を回し、掃除機をかけた。室内いっぱいに洗濯物を干すものだから湿っぽい。台所にも浴室にも干している。うっかり生乾きの布が頬に触れると不愉快になる。
 まだ蚊が飛んでる。
 いっそ外へ出て用足しでもしてこようかと思ったが、なんだか疲れてしまった。雨も降ってるし、洗濯物が乾いていないからシャワーも浴びられない。すこし昼寝をした。ほどよく体を動かした後なので気持ちよく寝られた。夕方になって目を覚ますとビン・カンを捨てに行った。蛍光灯と乾電池は“有害ゴミ”だそうなのでわざわざ回収ボックスまで捨てに行った。捨てに行くのが億劫なのでなるべく使わずに済ませようかとも思う。白熱灯電球ならただの“燃えないゴミ”かもしれない。帰りがけに自販機で〈コカ・コーラ〉を買った。
 今ならまだ来年の夏よりも今年の夏の方が近いはずだと思い、これまで必要に応じて小出しにしていた秋冬物の衣類を衣装箱から出し、夏物の衣類をしまった。私の衣装箱はジュラルミン製の大型トランクで、大昔に祖父がヨーロッパ旅行へ出るときに用意した物である。革の把手がそろそろちぎれそうになっている。それにしても防虫剤のニオイがすごい。入れすぎていたのかもしれない。なんだか頭が痛くなる。
 コンピュータを起動して何通かメールを書いた。メールを書こうとするたびに、自分が筆無精だったことを思い出す。送信を済ませてコンピュータを切ると家計簿を付けた。サッと手を伸ばして蚊を握り潰した──そうしてみて初めて、蚊が1匹だけではなかったことがわかった。手を洗うと米を研いで炊いた。夕飯はご飯、味噌汁(ジャガイモ、わかめ、インゲン)、水餃子、サラダ(きゅうり、トマト、にんじん)。洗い物を済ませると洗濯物を寄せてシャワーを浴びた──乾いているんだかいないんだか、よくわからん。防虫剤のせいで気分が悪い。
 ふたたびコンピュータを起動し、朝まで書き物をした。今は“ファンタジー”を書こうとしている。架空の町を舞台にした架空の人物たちの物語──たいていのフィクションは多かれ少なかれファンタジーを含んでいるが、それだけを抽出して培養するのは恥ずかしくてできない。私は恥ずかしさの“垢”をゴシゴシ落とすようにして書いている。むろん完膚なきまでに垢を落とすことはできない。

2000年11月2日(木)

 電話が鳴って目を覚ました──〈エネスタ〉からで、〈はやい乾太くん〉の入荷が遅れるとのこと。取付工事も今月の半ばまで先延ばしになった。今日もまた雨が降っている。
 もういっぺん眠ろうとすると、今度は根古島さんから電話があった。天気がよかったら明後日の土曜日に箱根までツーリングに行かないかとのこと。うけがっておいた。電話を切ったらもう眠れそうになかったので起きてしまうことにした。
 14時過ぎに部屋を出た。〈あさひ銀行〉でお金を下ろし、〈シャノアール〉でサンドウィッチを食べてコーヒーを飲むと、京王線に乗って新宿に出た。チケットショップで“前売券”を買うと、総武線で東中野へ行き〈BOX東中野〉で《ヒーロー・イン・チロル》を見た。楽しい映画だった。いつものことだが、映画館を出ると外はすっかり暗くなっていた。
 新宿に戻ると東口の〈お多幸〉へ行った。混んでいてやや待たされたが、おでんを食べて熱燗を飲んだ。あまりたくさんは飲めない。外に出ると雨はほぼ上がっていた。
 各駅停車に乗って居眠りしていたら寝過ごして、ひとつ先の駅まで行ってしまった。運良く反対方向の各駅停車がいたのでとてもスムーズに折り返した。部屋に戻るとバスタブに湯を張って入浴した。今夜は夜通し起きているのはやめにした。

2000年11月3日(金)

 9時半ごろ起きた。うどんを茹でて食べた。洗い物をしていると、速達で「醜男きたりなば」の刷出が届いた。
 コンピュータを起動しようとしてハッとした──今日は金曜日だ! 燃えるゴミの日だ! 祝日だから回収が早いのだ! 大急ぎでゴミをまとめると捨てに行った。裏手の集積所は既に回収済みだったが、表通りの方はまだだった。危ないところだった。
 書き物について考えを凝らすつもりで安楽な姿勢を取ってベッドに寝そべったら、そのまま眠り込んでしまった。目を覚ますと昼に近かった。ちょっと勃起していた。コンピュータを起動して書き物を始めた。考えが散漫であまり気乗りしなかったのだが、書き始めてみるとわりといい感じだった。それにしてもコンピュータはうるさい。なんでこんな冷却ファンの音やハードディスクのシーク音ばかり聞かされなければならないのか。いっそすべてのケーブルを最大限まで延長してコンピュータ本体は隣りの部屋にでも置きたいところだが、この住居には“隣りの部屋”というのはない。知らない人間の住む隣室があるだけである。
 夜までずっと書いていた。〈コカ・コーラ〉を飲み〈リッツ・クラッカー〉をかじった。19時半過ぎに書きやめると上衣を着て外に出た。今日は雨ではなかったらしい。近所のクリーニング店はもう閉まっていた。なので〈西友〉のクリーニング・コーナーで夏用のズボンをクリーニングに出した。そして買い物をした。鍋物用の野菜が安くなっていたので今夜は鍋をこしらえることにした。鶏肉、大根、春菊、がんもどき、えのき茸、長ねぎ、しらたき。……白菜を買い忘れた。
 食事と洗い物を終えて家計簿を付けると、シャワーを浴びてベッドに入った。蚊がいる。なんとかしなければならない。

読んだ感想を送る
草思社